【書き損じた文字の直し方】

 生活様式学会へようこそ。諸君は手紙を出そうとして封筒に宛名等を書いている際、間違ってしまった文字をいかなる具合に修正しているであろうか。個性とは、ミスを犯したときにこそ発揮されると言われる。今、諸君の人格が問われている。


報告一
【重々処置】 *じゅうじゅうしょち
別の紙を切って字の上から重ねて貼りつける

 紙を文字の大きさに切って上から重ねて貼りつければ、きれいに書き直すことができる。工夫して紙をハート型に切ったりすれば「あ、シール貼ってくれたんだ」と受取人の心も和むというもの。化粧で難を隠すことの素晴らしさを重々承知した大人の差出人ならこれだ。

 
報告二
【目画毛虫】 *めがもうちゅう
字をぐちゃぐちゃと塗りつぶして毛虫にする

 電子メール界で一世を風靡したポストペット・テイストを原始メールにも導入してみてはどうか。書き損じた文字を筆記具でぐちゃぐちゃと塗りつぶし、目玉を二つ描き込むだけでOK。あとはかわいいペットの毛虫ちゃんが無我夢中でキミのメールを運んでくれることだろう。


報告三
【紙稿削誤】 *しこうさくご 
カッターの刃などで書き誤った字を削り取る

 思考錯誤に陥るなどして書き誤った文字は、カッターで根こそぎ削り取ってしまおう。半紙やティッシュと違って封筒やはがきの紙は厚いので、表面さえ削れば間違いは跡形もなく消える。削ると表面が毛羽立って和紙のような優しい風合いを醸し出すのも嬉しいね。


報告四
【文中模索】 *ぶんちゅうもさく
訂正表現を書き加えてあくまで文章上で直す

 手紙に即物的な処置を施すなど著しく情緒を欠く愚挙。書くことを愛する文系の人間には、文中で落とし前をつける態度こそ相応だ。「もとい」「改め」「は置いといて」といった訂正表現を暗中模索して間違った部分に追加し、あくまで文章上で解決すべきなのである。


報告五
【印鑑無礼】 *いんかんぶれい
事務的常識に則って二本の線と訂正印で直す

 いいかげんな直し方をして相手に失礼があってはいけない。事務的な常識を備えた社会人として、慇懃に、無礼なきよう振る舞うには、間違った字の上から線を二本引き、線の両端に訂正印を押す正式マナーを。訂正印は通常の印鑑より一回り小さいものを使うこと。


報告六
【自力校正】 *じりきこうせい
印刷業界の常識に則って写植校正記号で直す

 間違った字から赤ペンで引き出し線を引いて欄外に訂正文字を書き込むのが、印刷物を校正する際の一般的な方法。手紙の宛名を直す場合もこれを適用すれば、昔グレていた自分が自力で更生して出版マスコミの人間になったことをさりげなくアピールできるのです。

 
報告七
【軽率字大】 *けいそつじだい
文字の線幅を太くして正しい文字に加工する

 螢や雪の光で勉強するような貧乏人は一枚の封筒も無駄にはできないが、大は小を兼ねることを思い出せば、軽率に字を書き損じた場合でも全然怖くない。字全体を太くしちゃえばいいのだ。字の幅を線の幅にすればごまかせるのだ。これなら視力が低い人も大歓迎。


報告八
【字地白黒】 *じじびゃっこく
黒く塗った地に白で字を書き芸術作品にする

 間違いを修正しようなんて考えでは、時々刻々と移り変わる時代に取り残される。潔く地全面を真っ黒に塗りつぶせば、一字の間違いなんて闇に消える。後は白い修正液で正しい宛名を記入すれば、地が黒、字が白のポジネガ反転芸術作品が完成。発想の転換だね。


(総括)
 ごまかしで成功するよりも堂々と失敗するほうがよい−−とはソフォクレスの言であるが、ならば宛名の書き損じも修正などしないほうがよいのであろうか。でもそれじゃ配達されないかもしれないし…などと考えるのは凡人なのだろうか。さて、総括である。

 報告一【重々処置】は、そのように難を糊塗するやり口にはいささか疑問を感じざるを得ない。だって一晩過ごして朝が来たら眉毛がなくなってて別人だったりするんだもん。

 報告二【目画毛虫】は毛虫ちゃんがモゾモゾと動いて「はしゃいでいます」とか報告されてもなあ、どこが可愛いんだかなあ、という思いがぬぐい去れないのであえてムシ。

 報告三【紙稿削誤】は、封筒自身が「毛羽だって和紙のような優しい風合いを醸し出す」ことについてどのように感じるのか、考えてみたことがあるのだろうか。痛いし汚いしやだなーと泣いてるよ、きっと。

 報告四【文中模索】は、配達する郵便局員さんがバイクに乗ったまま、一丁目と五丁目と八丁目のあいだをあっち行ったりこっち行ったりしている様がありありと脳裏に浮かぶ。

 報告五【印鑑無礼】は正式に封書に訂正印を用いるのが正しいのか正しくないのか、つまびらかでないが、もしもそんなことをされたら「すわ督促状か内容証明か」とビビリそうで嫌。

 報告六【自力校正】はまだ今一歩、更正し足りないようだ。あのね、ゲラじゃなくてちゃんと訂正したあとのやつを送ってくれよという心持ち。

 報告七【軽率字大】は大胆、というか太胆。しかし太くすれば何とかなると考えるあんたが軽率や。

 報告八【字地白黒】は秀逸だ。どこが秀逸かといえば、ほんの少しのミスに端を発して、やがては白を黒に反転させてしまうというすさまじさが。でももう一度間違えたらまた白に戻るのか?

 というわけで今回の推奨スタイルは、白は黒になり、黒は白になり、この世は万物流転の反転ワールドだ! とかいうことを見切ての狼藉と思われる【字地白黒】としたい。以上。

(グラフ)

50人アンケートの結果。「軽率字大」の1位は程度を問わず字を加工してごまかすものを全て入れたため。その他には「修正液で直す」「修正テープで〜」「修正ペンで〜」「捨てる」など。


(マトリクス)

なんとビューティフルといえるスタイルは「字地白黒」のみ。逆にいえばいかにこのスタイルが突出した魅力を放っているかの証明であろう。しかも度を超して、ディフィカルト。


久々、3ヶ月ぶりぐらいに更新〜。なんで宛名の例が真鍋かをりだったかというと、もちろん「を」と「お」を間違えやすい例として最適の人名だったからだが、もうひとつ、学会本が取り上げられた雑誌「タイトル」のカバー写真(本を食べているカット)がまだブログ女王になるまえのうら若き真鍋嬢で、すごくかわいかったから、という理由もありました。なつかすぃ〜。