【書き損じた文字の直し方】

 生活様式学会へようこそ。諸君は手紙を出そうとして封筒に宛名等を書いている際、間違ってしまった文字をいかなる具合に修正しているであろうか。個性とは、ミスを犯したときにこそ発揮されると言われる。今、諸君の人格が問われている。


報告一
【重々処置】 *じゅうじゅうしょち
別の紙を切って字の上から重ねて貼りつける

 紙を文字の大きさに切って上から重ねて貼りつければ、きれいに書き直すことができる。工夫して紙をハート型に切ったりすれば「あ、シール貼ってくれたんだ」と受取人の心も和むというもの。化粧で難を隠すことの素晴らしさを重々承知した大人の差出人ならこれだ。

 
報告二
【目画毛虫】 *めがもうちゅう
字をぐちゃぐちゃと塗りつぶして毛虫にする

 電子メール界で一世を風靡したポストペット・テイストを原始メールにも導入してみてはどうか。書き損じた文字を筆記具でぐちゃぐちゃと塗りつぶし、目玉を二つ描き込むだけでOK。あとはかわいいペットの毛虫ちゃんが無我夢中でキミのメールを運んでくれることだろう。


報告三
【紙稿削誤】 *しこうさくご 
カッターの刃などで書き誤った字を削り取る

 思考錯誤に陥るなどして書き誤った文字は、カッターで根こそぎ削り取ってしまおう。半紙やティッシュと違って封筒やはがきの紙は厚いので、表面さえ削れば間違いは跡形もなく消える。削ると表面が毛羽立って和紙のような優しい風合いを醸し出すのも嬉しいね。


報告四
【文中模索】 *ぶんちゅうもさく
訂正表現を書き加えてあくまで文章上で直す

 手紙に即物的な処置を施すなど著しく情緒を欠く愚挙。書くことを愛する文系の人間には、文中で落とし前をつける態度こそ相応だ。「もとい」「改め」「は置いといて」といった訂正表現を暗中模索して間違った部分に追加し、あくまで文章上で解決すべきなのである。


報告五
【印鑑無礼】 *いんかんぶれい
事務的常識に則って二本の線と訂正印で直す

 いいかげんな直し方をして相手に失礼があってはいけない。事務的な常識を備えた社会人として、慇懃に、無礼なきよう振る舞うには、間違った字の上から線を二本引き、線の両端に訂正印を押す正式マナーを。訂正印は通常の印鑑より一回り小さいものを使うこと。


報告六
【自力校正】 *じりきこうせい
印刷業界の常識に則って写植校正記号で直す

 間違った字から赤ペンで引き出し線を引いて欄外に訂正文字を書き込むのが、印刷物を校正する際の一般的な方法。手紙の宛名を直す場合もこれを適用すれば、昔グレていた自分が自力で更生して出版マスコミの人間になったことをさりげなくアピールできるのです。

 
報告七
【軽率字大】 *けいそつじだい
文字の線幅を太くして正しい文字に加工する

 螢や雪の光で勉強するような貧乏人は一枚の封筒も無駄にはできないが、大は小を兼ねることを思い出せば、軽率に字を書き損じた場合でも全然怖くない。字全体を太くしちゃえばいいのだ。字の幅を線の幅にすればごまかせるのだ。これなら視力が低い人も大歓迎。


報告八
【字地白黒】 *じじびゃっこく
黒く塗った地に白で字を書き芸術作品にする

 間違いを修正しようなんて考えでは、時々刻々と移り変わる時代に取り残される。潔く地全面を真っ黒に塗りつぶせば、一字の間違いなんて闇に消える。後は白い修正液で正しい宛名を記入すれば、地が黒、字が白のポジネガ反転芸術作品が完成。発想の転換だね。


(総括)
 ごまかしで成功するよりも堂々と失敗するほうがよい−−とはソフォクレスの言であるが、ならば宛名の書き損じも修正などしないほうがよいのであろうか。でもそれじゃ配達されないかもしれないし…などと考えるのは凡人なのだろうか。さて、総括である。

 報告一【重々処置】は、そのように難を糊塗するやり口にはいささか疑問を感じざるを得ない。だって一晩過ごして朝が来たら眉毛がなくなってて別人だったりするんだもん。

 報告二【目画毛虫】は毛虫ちゃんがモゾモゾと動いて「はしゃいでいます」とか報告されてもなあ、どこが可愛いんだかなあ、という思いがぬぐい去れないのであえてムシ。

 報告三【紙稿削誤】は、封筒自身が「毛羽だって和紙のような優しい風合いを醸し出す」ことについてどのように感じるのか、考えてみたことがあるのだろうか。痛いし汚いしやだなーと泣いてるよ、きっと。

 報告四【文中模索】は、配達する郵便局員さんがバイクに乗ったまま、一丁目と五丁目と八丁目のあいだをあっち行ったりこっち行ったりしている様がありありと脳裏に浮かぶ。

 報告五【印鑑無礼】は正式に封書に訂正印を用いるのが正しいのか正しくないのか、つまびらかでないが、もしもそんなことをされたら「すわ督促状か内容証明か」とビビリそうで嫌。

 報告六【自力校正】はまだ今一歩、更正し足りないようだ。あのね、ゲラじゃなくてちゃんと訂正したあとのやつを送ってくれよという心持ち。

 報告七【軽率字大】は大胆、というか太胆。しかし太くすれば何とかなると考えるあんたが軽率や。

 報告八【字地白黒】は秀逸だ。どこが秀逸かといえば、ほんの少しのミスに端を発して、やがては白を黒に反転させてしまうというすさまじさが。でももう一度間違えたらまた白に戻るのか?

 というわけで今回の推奨スタイルは、白は黒になり、黒は白になり、この世は万物流転の反転ワールドだ! とかいうことを見切ての狼藉と思われる【字地白黒】としたい。以上。

(グラフ)

50人アンケートの結果。「軽率字大」の1位は程度を問わず字を加工してごまかすものを全て入れたため。その他には「修正液で直す」「修正テープで〜」「修正ペンで〜」「捨てる」など。


(マトリクス)

なんとビューティフルといえるスタイルは「字地白黒」のみ。逆にいえばいかにこのスタイルが突出した魅力を放っているかの証明であろう。しかも度を超して、ディフィカルト。


久々、3ヶ月ぶりぐらいに更新〜。なんで宛名の例が真鍋かをりだったかというと、もちろん「を」と「お」を間違えやすい例として最適の人名だったからだが、もうひとつ、学会本が取り上げられた雑誌「タイトル」のカバー写真(本を食べているカット)がまだブログ女王になるまえのうら若き真鍋嬢で、すごくかわいかったから、という理由もありました。なつかすぃ〜。

【ピザの食べ方】

 生活様式学会へようこそ。諸君はピザをいかなる具合に食べているだろうか。ここでいうピザとはすなわちデリバリーで食べられるたぐいのピザだ。一切れ手に取るとフニャリとなりがちで、手はチーズやらオリーブオイルでベタつくし、そうこうするうち具がポロポロ落ちてきたりするあのビザだ。ピザって10回言ってみなのあのピザだ、でも可。

報告1
【凹道という名の王道】
中央部分をくぼませてヘリからの落下を防止
 ピザを手に載せたら、中央部がくぼむように指で表面をしならせて口に運ぶのである。こうすることによって、ピザにとって非常に重要なトッピング類がぽろっとヘリから落下して台無しになるという悲しい失態を防止するわけだ。所謂凹道である。即ち王道である。

報告2
【重力に一本勝ち】
下から指をあてがって強度不足の懸念を解決
 扇形にカットしたピザの最大の弱点は細い鋭角部にある。強度が不足しているため、普通に持っただけでは自重に耐えきれずに垂れ下がり、トッピングが落ちてしまうのだ。そこで、指を一本下からあてがいつっかい棒に抜擢。シュプレヒコールは「重力反対!」だ。

報告3
【ボンジョルノ! タタミーニ】
コンパクトにたたんで食べるのが日本らしさ
 折りたたむこと。それは、狭い日本で暮らす我々コンパクト国民が培ってきた基本技術だ。国産食品群に対しては勿論、外国からの渡来食品に対しても、やはりこのアプローチで臨むのが最適。二つに折りたたみ、ピザの本場の挨拶を投げかけて食うのが礼儀であろう。

報告4
【ピザサンド・ウィッチ・プロジェクト】
2枚を重ねてアメリカ的ボリューム感を満喫
 ピザを1枚ずつかじるなんて野暮。2枚のピザを接着し、サンドウィッチ感覚で一気に貪り食うのだ。ピザの消費量を増やすことでアメリカのような好景気を狙う起死回生のプロジェクトだ。食いすぎて乗り物酔いに似た感覚に襲われないよう体調を万全にして臨め。

報告5
【ピザカットしてグー】
ひとくちサイズに切断しておけば食べやすい
 切れ味鈍い歯でかじって切ろうとするからトッピングが剥がれて落ちたりするのであって、パイカッターやナイフのような切断ツールでひとくちサイズに切ってから食べれば、何の問題も起こらない。食べやすさは美味しさを構成する重要なファクターなのである。

報告6
【桃栗3年ピザ半日】
冷蔵庫に充分寝かせて美味しい干物を作ろう
 魚でも果実でも、干物にすると風味は格段に増すものだ。ピザもまた然り。ラップをかけずに冷蔵庫で半日も寝かせれば、乾いて適度に固く身が締まったピザの干物ができあがる。桃や栗は実がなるのに3年もかかるが、ピザはたった半日で収穫できる。嬉しいね。

報告7
【ピザを食らわば箱まで】
箱まで切ってしまえば便利な専用紙皿になる
 ダンボール箱に入っているという特徴を見逃すな。ピザを切る際は力を入れて箱まで一緒に切り、切り身にジャストフィットする専用紙皿として利用しよう。紙皿を持てば手が汚れないし、紙皿に載っていれば生地が重力に負けて垂れ下がることもさらさらないのだ。

報告8
【びっくり! ひっくり返しディップ】
ピザにスイスのチーズ文化を融合させるには
 トッピングやチーズが途中で落ちるのが気になるなら、最初から落としとけば? こんな驚きの発想転換から生まれたのが、ピザをひっくり返し、箱にこびりついたチーズにちぎった生地をディップさせて食べる作法。チーズフォンデュと見まがうスイス感が魅力だ。


(総括)
ピザの食べ方の王道、邪道、脇道
 言葉は木の葉のようである、それが非常に多くあるところに多くの意味の果実がひそんでいることはまれである−−とはポープの言であるが、ピザもときどき木の葉のようである。単にちょっと、ヘナヘナ系なところが。さて、総括である。

 報告1【凹道という名の王道】は、わかる。わかるが、そのように湾曲させるだけでは完璧でないからこそ、人はピザを食べるとき悩むのではないか。実際、トッピング類はそれでも落ちる。

 報告2【重力に一本勝ち】もわかる。わかるが…以下同文。

 報告3【ボンジョルノ! タタミーニ】のたたみかけるアプローチは示唆に富んでいる。ただ、なぜだか少し、せせこましい気分。日本人的すぎるのだろうか。

 報告4【ピザサンド・ウィッチ・プロジェクト】はその点、思いきりの良さと豪快さが感じ取れる。ピザ2枚重ねという荒業を講じていながら、ピザとしてのシルエットは失っていない点も見逃せない。

 報告5【ピザカットしてグー】は、理にかなってはいるが、道具を持ち出している時点でよこしまな印象を拭い得ない。

 報告6【桃栗3年ピザ半日】は画期的だが、まずいだろう。

 報告7【ピザを食らわば箱まで】も素敵な奥さんが喜びそうなアイデアではあるが、道具を使うのはやめようよ。

 報告8【びっくり! ひっくり返しディップ】は、それをピザとは呼びたくない、もしくは、ピザをそうやって食べる人と食卓を同じくしたくない。正直いって。

 というわけで今回の推奨スタイルは、ピザを重ねるという方法によってピザ本来の持つ弱点を見事に克服し、あまつさえ新食感すらも醸し出している【ピザサンド・ウィッチ・プロジェクト】としたい。以上。

(プロフィール)
研究ユニット●生活上のグラマラスな題材について精力的but投げや
りに探求中。副宰がDIONのCMをみて「猪木も歳とって変わり果てたも
んだなぁ」と一人ごちていたことが発覚。そのはれぼったい目の節穴
ぶりを露呈し、主宰と事務員からの失笑ビームを体いっぱいに浴びた。

2000年当時、猪木の物まねの春一番DIONのCMに出てたってことかと思われ。しかし、DION自体、もうないんだよな…。

【電車座席での向かい合い方】

(前口上)
生活様式学会へようこそ。諸君は二人して電車に乗って旅をするとき、車内の対面式座席において、お互いどのような座り方をするだろうか。向かい合って座っていて、そのままでは少し脚が窮屈、というのがポイントだ。恐らくは譲り合いもあれば凭れ合いもあり、かつまた牽制し合いやツバぜり合いもあるに違いない。そんな向かい合いに、頭上より迫ってみた。

報告1【二人の秘書】
閉じた太ももを斜めに配置する美人スタイル
 限られた座席スペースを最大限に利用するためには、両膝をぴちっと閉じてお互いが心持ち斜め方向に脚を逃がせばよい。ハイヒールを履いた美人秘書が向かい合っている図を妄想すれば自ずとこうなるはず。電車では男性も女らしい股ぐら像を心がけるべきなのだ。


報告2
【チャックだニー】
4つの膝を互い違いにかみ合わせる連結方式

 少しだけ脚を広げて己の膝と向かいの人の膝を互い違いにかみ合わせてみよ。あたかも車両同士が連結するように乗客同士がつながった充足感が生じるのに気づくだろう。そう。これは疎外された現代人を連帯させる膝チャック。ジッパーなんて言うな。チャックだ。


報告3
【上野発の凸ガール凹ボーイ】
男が開いて女が攻める役割逆転エロチシズム

 北へ向かう人の波は誰も無口で、駆け落ちした恋人同士が声高に愛を語らうのははばかられる。そこで、男が広げた股ぐらに女が両膝を挿入する座り方。「今は立場が逆だが夜になったら俺が挿入するぜ…」「わかってるわアンタ」という暗黙の艶情交換を楽しむのだ。


報告4
【宣戦布告ヒザ!ヒザ!ヒザ!】
膝と膝を押し合わせて正々堂々と覇権争いを

 対面シートは別名タイマンシートと呼ばれるように、乗客同士がスペースをかけて争う真剣勝負の戦場だ。相手の隙を見て奇襲をかける卑怯者と言われたくなければ、正面からぐいぐいと膝を押し合う心意気が必須。膝同士が隆起して火山を形成するぐらいが望ましい。


報告5
【のびのびカップル進行中】
相手座席を足の置き場と捉える旅行快適化策
 狭い座席で縮こまっているのは疲れる。長距離旅行を快適に過ごすには脚を伸ばす姿勢が一番。通路側の場合は通路に脚を伸ばせばよいが、窓側の場合はそうもいかないので向かい座席に足を載せる。電車の進行とともに二人の仲もめきめき進行しちゃうことうけあい。


報告6
【シヴヤはつづくよどこまでも】
ストリート座りを応用したヤング世代の座法
 地べたに座ることに慣れた渋谷くんだりのヤング世代は、座席に普通に腰かけるのは結構辛いのではないか。膝を抱えて足を座席に載せる方が、より路上感が高く彼らには自然なのだ。唾を吐いたりしない限り、省スペースにつながるこのスタイルは称賛されるべき。


報告7
【友情のカカト落としカウンター】
互いの片足を肩に載せ合うバイブ機能重視型
 靴を脱いでお互いの肩に足を載っける。一見エキセントリックだが、ここには高いマッサージ効果と相手を思いやる真心が隠れている。電車の小刻みな振動によってカカトがバイブレーターに変身するのだ。加えて下半身のストレッチ効果も。とにかくTry now! だ。


報告8
【みんなも車掌さんもWow×4♪】
電車の魔力に潔く従う男と女の対面座位姿勢
 電車には痴漢が多い。ここから推測するに、電車は人を淫靡にさせる魔力を持つのではないか。いわばLOVEマシーン。日頃貞淑で知られる女も、堂々と股を広げて男の太ももに乗るアバズレに豹変するのが当然なのだ。覚えとけ。対面座席には対面座位がよく似合う。


(総括)
対面で戦うか、助け合うか、乳繰るか
 科学に国境なし−−とはパスツールの言だが、でははたして電車の対面式座席において国境はあるのだろうか。向かい合って座ればすぐさま否応なく陣地取り合戦は始まる。ということはつまり、向かい合った二人の間にも国境はない。ないから争うのだろう。さて、総括である。

 報告1【二人の秘書】はストイシズム溢れる報告。とてもいいのだが、しかし膝閉じデフォルトの秘書はともかくとして、やはり男がこの姿勢を30分以上続けるのは恐ろしく疲れる。

 報告2【チャックだニー】は男でも疲れなさそうだ。しかし今度は女性が問題。しかもこのまま眠って姿勢がずれてしまったら、がっちり太腿まで完全チャック閉じ状態になって外れなくなる危険性はないのか。

 報告3【上野発の凸ガール凹ボーイ】は男女の役割分担型。しかし駆け落ち男女は横に並んで座って欲しい。何となく。

 報告4【宣戦布告ヒザ!ヒザ!ヒザ!】には、戦争反対!とだけ叫んでおく。

 報告5【のびのびカップル進行中】はリラックスしてくると見かける光景。ただ、お互い隣に乗客がいた場合、尻面積+足面積の答えによってはハミダシが生じるであろう。

 報告6【シヴヤはつづくよどこまでも】は床に直に座り給え。

 報告7【友情のカカト落としカウンター】は、そうは言われても奇異。しかし一度試しにやってみるとこれがえも言われぬいい感じなのだ。肩こり派にはとくに好適。注目度もアップだ。

 報告8【みんなも車掌さんもWOW×4♪】はベッドに行き給え。

 というわけで今回の推奨スタイルは、足の臭いさえ気にしなければ車内が快適なマッサージルームに早変わりするとすら断言できる【友情のカカト落としカウンター】としたい。以上。

絵/龍野宏幸

(副宰より)
この研究を発表した当時はモーニング娘。全盛。近況報告欄には、

研究ユニット●生活上のグラマラスな題材について精力的but投げや
りに探求中。今学会中、モーニング娘。の「LOVEマシーン」を発売日
に即買いしたと主宰が激白。安倍なつみに似ていると一部掲示板で囁
かれた学会名誉会員・N嬢との意外な接点が奇しくも明らかとなった。

と書いてありました。N嬢もいまや人妻。なっちってどうしたっけ…。

【コーヒーの頼み方】

(前口上)
生活様式学会へようこそ。諸君は喫茶店にてホットなコーヒーを注文する際、ウェイターもしくはウェイトレスに対してそれをどのように告げているだろうか。要するにホットコーヒーをどう呼ぶかという、ちょっとホッとするようなお話(?)。

報告1
【種捨温入】 
コーヒーの注文が前提なので温度だけを指示
 喫茶店で頼むのは当然コーヒーと決まっている。客が指示する必要があるのはコーヒーが熱いか冷たいかという一点だけ。前者の場合は「ホット」と言えば十分だ。種類の指示は切り捨て、温度の指示だけを視野に入れる。これを四捨五入にならって種捨温入という。


報告2
【インスタント恋(こひ) 
意図的な不完全注文で店員からの質問を期待
 店員には「コーヒー」とオーダー。すると相手は「ホットですか、アイスですか?」と聞いてくるので、ここで満を持して温度指示を。つまり、注文を一方的なものから双方向のコミュニケーションへと発展させようってわけ。そんな風に即席で始まる恋もあるんだよね。


報告3
【慇懃ブレンドリー】 
店のオリジナルな配合に敬意を払うのが礼儀
 喫茶は一期一会。他の店ではないこの店に入ったという事実を大切にしないと。少しでもそう思うのならば、注文言葉は「ブレンド」で。ただのコーヒーではなく、その店が独自に豆の割合を配合したコーヒーを飲みたいという気持ちを慇懃に伝える名注文と言えよう。


報告4
【ザ・パーフェクト・オーダー】 
プロの喫茶客として当然の遺漏なきオーダー
 ホットコーヒーが欲しいんだから注文は「ホットコーヒー」。これでキマリ。特に検討の必要はない。店員側にあれこれ追加質問する隙を与えたりすることのない、明瞭にして簡潔にして完全なオーダーを遂行するのが、プロの喫茶客として当然の態度だからである。


報告5
【常連の門】
初の来店でも通用させるのが真のコーヒー通
 顔なじみの店でリラックスしながら飲むコーヒーの旨さを知る違いがわかる男としては、初めての店であっても注文は「いつもの」の一言ですませたい。普通にコーヒーが出てくるか。訝しがられるか。真のコーヒー通になれるかどうかはこの大勝負にかかっている。

 
報告6
【場末の帰国子女】 
真の国際人ならば日常の場でも正しい発音を
 コーヒー注文の際はもとの英単語に忠実に「カフィー」と発音すべき。無論、下唇は上の歯で噛むこと。日常の些細な生活シーンからこそ真の国際化は始まるわけで、自ら率先してそうした地道な啓蒙活動に勤しむことは帰国子女に与えられた唯一の任務なのである。

 
報告7
【略語は楽しいな】 
店員の共感を得るための椎名林檎風省略言葉
 伝票に記入するときみたいに、ホットコーヒーを略して「HC」って頼んであげると、店員の仏頂面も少しは和むんじゃないかな。略語にすると何かと効率がいいだろうし、何より「椎名林檎/絶頂集」を「sr/zcs*」と略するみたいで素敵。もう、楽しいな林檎って感じ。


報告8
【伝説の喫茶詩人ブラッキー
平凡な一般人とは一線を画す文学的注文表現
 苦さ、香ばしさ、酸味、コク……。コーヒーには様々な属性があるが、中でも特に色に着目して「くろいの」と注文するようでなければ詩人とは言えない。最初は理解されなくても諦めずに何度も繰り返せばいつかは伝わる。そして詩人はその店の伝説と化すだろう。

(グラフ)
場末の喫茶店において客50人の注文を観察した結果。既に絶滅したと思われていたギョーカイ語の「ヒーコー」や江戸弁の「コーシー」が今でも細々と生きながらえているのが少々感慨深い。

マトリックス
最もプロっぽさが漂うスタイルは「略語は〜」であり、かつまたそれは今後流通するに違いないとの期待を込めた判断でもあるのだが、それつけても「伝説の〜」は特異すぎる。

(総括)
 自由は健全なる制限に比例して存在す−−とはダニエル・ウェブスターの言であるが、ホットコーヒーの頼み方がちょうどそんな具合である。どう頼んでもよいわけではないが、反面、意外なほど多様な頼み方が許されてもいる。なんでですかね。さて、総括である。

 報告1【種捨温入】に関しては、ホットココアやホットミルクの立場が少々可哀想との感想を持った。持ったと同時に、そんな横着な客はホットけー、という感想も持った。個人的に。

 報告2【インスタント恋】は、ない。そんなに即席に恋が始まったら日本中の喫茶店で恋が始まりまくりではないか。まさか、始まりまくりなの?

 報告3【慇懃ブレンドリー】はその慇懃なフレンドリーさ加減がむしろヤラシイ。口ひげを生やして三つ揃いのスーツを着こなし、小指を立てる仕草が様になるくらいダンディーな紳士なら特別に可。

 報告4【ザ・パーフェクト・オーダー】は、そういう性格って面白くない。

 報告5【常連の門】は意表を突いている。ただしその大勝負の結果はほぼ見えていると言えよう。

 報告6【場末の帰国子女】は「パードゥン?」と5回くらい聞き返してやりたい気分。

 報告7【略語は楽しいな】は楽しいな。21世紀はこれでキマリと言い切ってもいいほどに。かつてない新鮮味を備えていながら、さほど無理を感じさせないと言えなくもないほのかな親密感も有しているあたりが秀逸。

 報告8【伝説の喫茶詩人ブラッキーはオリジナリティありすぎ。ていうか喫茶詩人って何?

 というわけで今回の推奨スタイルは、ホットコーヒーが新感覚飲料へと変貌したかのような錯覚に頭がクラクラしそうな【略語は楽しいな】としたい。以上。

絵/龍野宏幸


(副宰より)
椎名林檎/絶頂集」絶頂集なんぞを得意げにネタにしているところに時代を感じざるを得ませんな。ちなみに、発表時の通信欄には、

生活様式学会の公式ホームページが、11月に発売される2001年版『現代用語の基礎知識』(自由国民社)でちらっと紹介されることに。副宰は『現代用語のクソ知識』の間違いでないことを祈った。

とこれまた得意げに記していましたとさ。

【キャラメルのなめ方】

(前口上)
現代生活様式学会へようこそ。諸君はキャメルカラーのキャラメルを一粒なめるとき、口中においていかなることを行っているだろうか。え、なになに、単になめるだけ? ええいっ、つまらぬ。つまらぬ男よのぉ。もっとテクニック、使ってネ。

報告一
【舌の下は池でした。】
アメとみなせばためた唾液で溶かすのが自然

 箱を見ればわかるように、キャラメルのメイン原材料は水飴だ。とすれば、アメと同様、唾液で溶かして味わうのが適切。そして誤って噛んでしまわずに唾液を分泌するには、舌の下に置いとくのが一番。甘くなった唾液池を極限までためてゴックンと飲み干すべし。

報告二
【甘いマウスピース】 
隠し味の歯垢が光る歯茎−唇間挿入スタイル

 舌と唾液でやわらかくなめしたら、前歯の歯茎と唇の間にキャラメルを滑り込ませよう。すると、マウスピースを装着したボクサー気分が味わえるのは勿論、前歯の歯垢をキャラメルに転移させることができるからグー。歯垢の隠し味でキャラメルの風味を倍増だ。


報告三
【口蓋甘移植】 
人工皮膚との一体感が素敵な口内貼りつけ案

 生体肝移植が行われるようになった現代に最もふさわしい食べ方といえばこれ。キャラメルを薄く伸ばして口の中の上側の部分、つまり口蓋の皮膚に貼りつけることで、甘い甘い人工スキンに仕立てるわけ。キャラメルと一体に溶け合う感覚が大スキ(ン)な貴方へ。

報告四
【穴埋めキャラッ歯義歯なじん伝】
虫歯治療の大切さを感じるための義歯化戦術

 虫歯が気になってはいるけど、つい歯医者に行きそびれちゃう……。そんな貴兄なら、虫歯の穴にキャラメルを詰める荒療治を。キャラメル製の義歯が徐々に溶けていく様子を体感すれば、さすがに怖くなって足が歯医者に向かうこと間違いなし。明日は我が歯です。

報告五
【ほら、ボクのこんなにちっちゃくなったよ】
指で出し入れしてサイズを確認する男の美学

 大小に必要以上にこだわってしまうのが男というもの。キャラメルも、逐一指に出してどれだけ小さくなったか確認しながら食べるのが当然というもの。何度見ても大きくなることなどないのにそれでも見ざるを得ないという、男というものの本質を表す好スタイル。

報告六
【貧乏デュオ・キープ&レロ】
舌先でレロレロしてなるべくゆっくり味わえ

 贅沢に一口で食うようではバチがあたる。甘くて栄養価が高くて貴重なおやつは、できる限りゆっくり時間をかけて味わわなければ。前歯でキャラメルを挟んでキープしながら舌先だけでレロレロとなめる作戦でキャラメル長食い世界記録を狙え。そして大富豪へ−−。

報告七
【かけだし泡姫、3時のおやつ】
チェリーの茎を舌先で結ぶが如き超絶舌技巧

 午後3時。そろそろおやつにしようと、彼女は取り出したキャラメルを口に投げ入れる。器用に蠢く舌の上では、紐状にしつらえられたキャラメルが、まるでチェリーの茎のように、見事な結び目を作っている。仕事熱心な新人泡姫は、今日も舌技の鍛錬に励んでいる。

報告八
【アシッド・キャラでレッツ・モー!】
貴方はまだ甘いだけのキャラで満足ですか?

 ただスイートなだけの甘ちゃんキャラクターはもういらない。これからの主流はちょっと酸味のあるキャラだ。だったら反芻だ。キャラメルを一度飲み込んでから再び口中に戻すのだ。胃液でコーティングされたキャラはモ〜まさしくアシッドそのもの。目指すは牛。

(グラフ)
50人アンケートの結果。その他で最も多かったのは「奥歯で噛む」。「前歯で噛む」「丸飲み」「輪にして舌を通す」「フーセンガムっぽく」も健闘。「のどちんこでなめる」が異彩を放った。

(マトリクス)
ながーくあいしてスタイルが多いのはまあ当然として、くっつく派とくっつかない派はほぼ拮抗。中でも「アシッド」「ほら〜」「貧乏〜」の縦一線ぶりはまるで兄弟のようである。

(総括)
 どんな貞節な女でも何かしら決して貞節でないものを自分の裏に持っている−−とはディドローの言であるが、キャラメルを食べているときにその口中でいかなる貞節でないことが行われているかは他人にはまったく知る由もないんだもんなあ。世の中ってコワイよ。さて、総括である。

 報告一【舌の下は池でした。】は、えっ、キャラメルのメイン原材料って水飴なの!? という事実にのみ驚かされたが、他は特段どうということもなし。たちつてとが言いにくそうではある。

 報告二【甘いマウスピース】歯垢の隠し味は、かなりのグルメでないとよさがわからないのではないかという点が気になった。まみむめもが言いにくそうでもある。

 報告三【口蓋甘移植】はあまり喉ちんこ近くにまで貼ろうとすると嘔吐感に見舞われます。あと、なにぬねのが言いにくいかも。

 報告四【穴埋めキャラッ歯義歯なじん伝】はマフィア御用達の拷問のごとし。なじまない、なじまない。

 報告五【ほら、ボクのこんなにちっちゃくなったよ】は、あまりに自己憐憫が過ぎて悲しくなる思い。しょぼん。

 報告六【貧乏デュオ・キープ&レロ】はまかり間違って地面などに落としてしまったときのキープ&レロの狼狽ぶりが心配。

 報告七【かけだし泡姫、3時のおやつ】はなんと健気なのだろう。そして、なんととろけるように魅惑的な舌技なのだろう。ぜひ試してみたい。登楼したい。

 報告八【アシッド・キャラでレッツ・モー!】の牛君とは金輪際お近づきになりたくないよ、モ〜。

 というわけで今回の推奨スタイルは、超人的な女の又に力と書いて努力を続ける姿が、感動の涙とカウパー液を誘う【かけだし泡姫、3時のおやつ】としたい。以上。

絵/龍野宏幸

【パック寿司の食べ方】

現代生活様式学会へようこそ。諸君はスーパーあたりで購入してきたパック入りの安めな寿司を食べる際、いかにして醤油をつけ、醤油をつけた寿司を口に運んでいるだろうか。チープな寿司にはチープな寿司にふさわしい食べ方を! 陳腐ではなく。

報告1
【オンリー・ネタッチShow you!】

寿司を裏返してネタだけに醤油をつけて食う
 寿司屋で観察してみよ。通は寿司を裏返してから醤油をチョイとつけて食べているはず。寿司自体の旨味を味わうため、醤油を吸収しすぎないネタの方だけをつけるわけ。パック入り廉価版とはいえ寿司は寿司。通が見せるネタタッチ法を真似たい。しょうゆうこと。


報告2
【われら、おシャリな濃厚民族】

塩辛さを重視して飯だけに醤油をつけて食う
 パック寿司は店で食う寿司に比べて安いので、ネタの鮮度が今一つ。普通の寿司と同じ食い方ではこの点が際立ってしまう。そこで有効なのが、シャリを醤油につける方法。飯は醤油をよく吸収するので濃厚な塩辛さが先に立ち、ネタの悪さがうまく隠れるのである。


報告3
【ショウコに横づけ】

バラバラ化を防ぐため横にして醤油をつける
 一般的に握りが甘いパック寿司を普通の寿司と同じように食うと、飯粒がぽろっと落ちがち。ネタと飯も分離しがち。だから、つまんだ寿司を横にして醤油をつけるのがいい。ショウコと名づけた醤油に口づけする感覚だ。性懲りもなくバラバラ事件を繰り返すなかれ。


報告4
【マグロ鳥の餌づけ】

前もって醤油を均等にかけておいてから食う
 パック寿司で困るのは、初期段階で無計画に使いすぎたせいで後半に醤油が枯渇すること。侮辱的なこの失態を避けるには、ヒナに餌を与える親鳥みたいに、醤油を一個ずつ均等にかけておけばよい。そうやって育ててからパクッといくのが残酷にしてグルメチック!


報告5
【さしみいキモチ】

ネタとシャリを分離させ刺身ご飯として食う
 生まれながらに二流の宿命を背負わされたパック寿司を寿司として見ていては人間まで二流になってしまう。ここは本人たちがいかに淋しさを訴えようとも心を鬼にし、ネタと飯を分離させて食うべし。寿司としては二流でも刺身ご飯としては一流。目指すのはこれ。
 

報告6
【袋ナメってしょっぱいから好き(はぁと)】

付属の醤油小袋を適宜ナメナメしながら食う
 醤油の袋を適量ずつナメナメして、口中で寿司と合体させながら食うのがベストの選択でしょう。これなら容器に醤油が全くつかないから食った後に放置しておいても臭ってこないし、袋をなめるっていう行為がなんだか淫靡でしょ。奉仕精神旺盛な女子にオススメ。
 

報告7
ガリガリ君・醤油味】

付属のショウガを適宜ナメナメしながら食う
 パック寿司は店で食う寿司に比べて安いので、ネタの鮮度が今一つ。普通の寿司と同じ食い方ではこの点が際立ってしまう。そこで有効なのが、醤油をしみこませたガリを適宜なめながら食べる方法。ショウガ風味が先に立ち、ネタの生臭さがうまく隠れるでしょうが。


報告8
【秒食! シェイク寿司】

容器の中で醤油と寿司を混合させてから食う
 醤油を容器のフタにどばーっとあけたら、フタを閉じて勢いよくシェイク&シェイク。醤油が寿司とよく混ざり合ったらフタをあけ、即席ちらし寿司として食べよう。いちいち醤油をつけていられない食べ盛りのハングリーボーイには、一気にいけるこの食い方が一番。



50人アンケートの結果。やはりパック寿司では醤油味が重視さるよう。本格的寿司屋では違う結果が出るだろう。なお、「袋ナメ〜」は袋でない醤油容器も含む。「マグロ鳥〜」は「ネタと飯の間に醤油を注入」も含む。


短期間に最も大量に平らげられ、かつラディカルなのは「秒食!〜」だが、「袋ナメ〜」がそれよりもさらに少し右寄りに位置している。2列目からゴールを狙う司令塔の風格だ。

学会主宰より総括
 天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず−−とは福沢諭吉の言だが、人は寿司の上には寿司をつくったわけである。回らない松、竹、梅の寿司の下に回る150円、120円、100円寿司があって、そのまた下にパック寿司……というあたりだろうか。さて、総括である。

 報告1【オンリー・ネタッチShow you!】は通ぶった主張であるらしい。でも通はそもそもパック寿司をよしとはしないと思う。しょうゆうこととちゃう?

 報告2【われら、おシャリな濃厚民族】は、そこまでつけると醤油に浸されたシャリがボロボロと崩壊していく様が目に浮かぶようで痛々しい。

 報告3【ショウコに横づけ】には、横づけと口づけはやはり似て非なるものなのではないかとだけ疑問を呈しておこう。

 報告4【マグロ鳥の餌づけ】は興味深い。何が興味深いかというとマグロは魚なのに鳥と言いきっているあたりがいくぶん。でも、イカ鳥やエビ鳥は無視するのねと拗ねたい気分。

 報告5【さしみいキモチ】は発想がちょっとさみしい。

 報告6【袋ナメってしょっぱいから好き(はぁと)】はそそられる。まず第一に合理的な気がするし、第二に個人的に袋は弱いんだもん。脱パン、もとい脱帽。

 報告7ガリガリ君・醤油味】はちょっとしょうがないなあ。

 報告8【秒食! シェイク寿司】は、にぎり寿司のにぎりとしてのアイデンティティはもはや跡形もなく破壊つくされたとしか言えず。

 というわけで今回の推奨スタイルは、袋の中身をちゅるちゅる吸いつつ寿司をつまむその姿は無重力空間で宇宙食を食す飛行士にも似て、意外と未来的かもねと思えなくもない【袋ナメってしょっぱいから好き(はぁと)】としたい。以上。

絵/龍野宏幸