【ピザの食べ方】

 生活様式学会へようこそ。諸君はピザをいかなる具合に食べているだろうか。ここでいうピザとはすなわちデリバリーで食べられるたぐいのピザだ。一切れ手に取るとフニャリとなりがちで、手はチーズやらオリーブオイルでベタつくし、そうこうするうち具がポロポロ落ちてきたりするあのビザだ。ピザって10回言ってみなのあのピザだ、でも可。

報告1
【凹道という名の王道】
中央部分をくぼませてヘリからの落下を防止
 ピザを手に載せたら、中央部がくぼむように指で表面をしならせて口に運ぶのである。こうすることによって、ピザにとって非常に重要なトッピング類がぽろっとヘリから落下して台無しになるという悲しい失態を防止するわけだ。所謂凹道である。即ち王道である。

報告2
【重力に一本勝ち】
下から指をあてがって強度不足の懸念を解決
 扇形にカットしたピザの最大の弱点は細い鋭角部にある。強度が不足しているため、普通に持っただけでは自重に耐えきれずに垂れ下がり、トッピングが落ちてしまうのだ。そこで、指を一本下からあてがいつっかい棒に抜擢。シュプレヒコールは「重力反対!」だ。

報告3
【ボンジョルノ! タタミーニ】
コンパクトにたたんで食べるのが日本らしさ
 折りたたむこと。それは、狭い日本で暮らす我々コンパクト国民が培ってきた基本技術だ。国産食品群に対しては勿論、外国からの渡来食品に対しても、やはりこのアプローチで臨むのが最適。二つに折りたたみ、ピザの本場の挨拶を投げかけて食うのが礼儀であろう。

報告4
【ピザサンド・ウィッチ・プロジェクト】
2枚を重ねてアメリカ的ボリューム感を満喫
 ピザを1枚ずつかじるなんて野暮。2枚のピザを接着し、サンドウィッチ感覚で一気に貪り食うのだ。ピザの消費量を増やすことでアメリカのような好景気を狙う起死回生のプロジェクトだ。食いすぎて乗り物酔いに似た感覚に襲われないよう体調を万全にして臨め。

報告5
【ピザカットしてグー】
ひとくちサイズに切断しておけば食べやすい
 切れ味鈍い歯でかじって切ろうとするからトッピングが剥がれて落ちたりするのであって、パイカッターやナイフのような切断ツールでひとくちサイズに切ってから食べれば、何の問題も起こらない。食べやすさは美味しさを構成する重要なファクターなのである。

報告6
【桃栗3年ピザ半日】
冷蔵庫に充分寝かせて美味しい干物を作ろう
 魚でも果実でも、干物にすると風味は格段に増すものだ。ピザもまた然り。ラップをかけずに冷蔵庫で半日も寝かせれば、乾いて適度に固く身が締まったピザの干物ができあがる。桃や栗は実がなるのに3年もかかるが、ピザはたった半日で収穫できる。嬉しいね。

報告7
【ピザを食らわば箱まで】
箱まで切ってしまえば便利な専用紙皿になる
 ダンボール箱に入っているという特徴を見逃すな。ピザを切る際は力を入れて箱まで一緒に切り、切り身にジャストフィットする専用紙皿として利用しよう。紙皿を持てば手が汚れないし、紙皿に載っていれば生地が重力に負けて垂れ下がることもさらさらないのだ。

報告8
【びっくり! ひっくり返しディップ】
ピザにスイスのチーズ文化を融合させるには
 トッピングやチーズが途中で落ちるのが気になるなら、最初から落としとけば? こんな驚きの発想転換から生まれたのが、ピザをひっくり返し、箱にこびりついたチーズにちぎった生地をディップさせて食べる作法。チーズフォンデュと見まがうスイス感が魅力だ。


(総括)
ピザの食べ方の王道、邪道、脇道
 言葉は木の葉のようである、それが非常に多くあるところに多くの意味の果実がひそんでいることはまれである−−とはポープの言であるが、ピザもときどき木の葉のようである。単にちょっと、ヘナヘナ系なところが。さて、総括である。

 報告1【凹道という名の王道】は、わかる。わかるが、そのように湾曲させるだけでは完璧でないからこそ、人はピザを食べるとき悩むのではないか。実際、トッピング類はそれでも落ちる。

 報告2【重力に一本勝ち】もわかる。わかるが…以下同文。

 報告3【ボンジョルノ! タタミーニ】のたたみかけるアプローチは示唆に富んでいる。ただ、なぜだか少し、せせこましい気分。日本人的すぎるのだろうか。

 報告4【ピザサンド・ウィッチ・プロジェクト】はその点、思いきりの良さと豪快さが感じ取れる。ピザ2枚重ねという荒業を講じていながら、ピザとしてのシルエットは失っていない点も見逃せない。

 報告5【ピザカットしてグー】は、理にかなってはいるが、道具を持ち出している時点でよこしまな印象を拭い得ない。

 報告6【桃栗3年ピザ半日】は画期的だが、まずいだろう。

 報告7【ピザを食らわば箱まで】も素敵な奥さんが喜びそうなアイデアではあるが、道具を使うのはやめようよ。

 報告8【びっくり! ひっくり返しディップ】は、それをピザとは呼びたくない、もしくは、ピザをそうやって食べる人と食卓を同じくしたくない。正直いって。

 というわけで今回の推奨スタイルは、ピザを重ねるという方法によってピザ本来の持つ弱点を見事に克服し、あまつさえ新食感すらも醸し出している【ピザサンド・ウィッチ・プロジェクト】としたい。以上。

(プロフィール)
研究ユニット●生活上のグラマラスな題材について精力的but投げや
りに探求中。副宰がDIONのCMをみて「猪木も歳とって変わり果てたも
んだなぁ」と一人ごちていたことが発覚。そのはれぼったい目の節穴
ぶりを露呈し、主宰と事務員からの失笑ビームを体いっぱいに浴びた。

2000年当時、猪木の物まねの春一番DIONのCMに出てたってことかと思われ。しかし、DION自体、もうないんだよな…。