【パック寿司の食べ方】

現代生活様式学会へようこそ。諸君はスーパーあたりで購入してきたパック入りの安めな寿司を食べる際、いかにして醤油をつけ、醤油をつけた寿司を口に運んでいるだろうか。チープな寿司にはチープな寿司にふさわしい食べ方を! 陳腐ではなく。

報告1
【オンリー・ネタッチShow you!】

寿司を裏返してネタだけに醤油をつけて食う
 寿司屋で観察してみよ。通は寿司を裏返してから醤油をチョイとつけて食べているはず。寿司自体の旨味を味わうため、醤油を吸収しすぎないネタの方だけをつけるわけ。パック入り廉価版とはいえ寿司は寿司。通が見せるネタタッチ法を真似たい。しょうゆうこと。


報告2
【われら、おシャリな濃厚民族】

塩辛さを重視して飯だけに醤油をつけて食う
 パック寿司は店で食う寿司に比べて安いので、ネタの鮮度が今一つ。普通の寿司と同じ食い方ではこの点が際立ってしまう。そこで有効なのが、シャリを醤油につける方法。飯は醤油をよく吸収するので濃厚な塩辛さが先に立ち、ネタの悪さがうまく隠れるのである。


報告3
【ショウコに横づけ】

バラバラ化を防ぐため横にして醤油をつける
 一般的に握りが甘いパック寿司を普通の寿司と同じように食うと、飯粒がぽろっと落ちがち。ネタと飯も分離しがち。だから、つまんだ寿司を横にして醤油をつけるのがいい。ショウコと名づけた醤油に口づけする感覚だ。性懲りもなくバラバラ事件を繰り返すなかれ。


報告4
【マグロ鳥の餌づけ】

前もって醤油を均等にかけておいてから食う
 パック寿司で困るのは、初期段階で無計画に使いすぎたせいで後半に醤油が枯渇すること。侮辱的なこの失態を避けるには、ヒナに餌を与える親鳥みたいに、醤油を一個ずつ均等にかけておけばよい。そうやって育ててからパクッといくのが残酷にしてグルメチック!


報告5
【さしみいキモチ】

ネタとシャリを分離させ刺身ご飯として食う
 生まれながらに二流の宿命を背負わされたパック寿司を寿司として見ていては人間まで二流になってしまう。ここは本人たちがいかに淋しさを訴えようとも心を鬼にし、ネタと飯を分離させて食うべし。寿司としては二流でも刺身ご飯としては一流。目指すのはこれ。
 

報告6
【袋ナメってしょっぱいから好き(はぁと)】

付属の醤油小袋を適宜ナメナメしながら食う
 醤油の袋を適量ずつナメナメして、口中で寿司と合体させながら食うのがベストの選択でしょう。これなら容器に醤油が全くつかないから食った後に放置しておいても臭ってこないし、袋をなめるっていう行為がなんだか淫靡でしょ。奉仕精神旺盛な女子にオススメ。
 

報告7
ガリガリ君・醤油味】

付属のショウガを適宜ナメナメしながら食う
 パック寿司は店で食う寿司に比べて安いので、ネタの鮮度が今一つ。普通の寿司と同じ食い方ではこの点が際立ってしまう。そこで有効なのが、醤油をしみこませたガリを適宜なめながら食べる方法。ショウガ風味が先に立ち、ネタの生臭さがうまく隠れるでしょうが。


報告8
【秒食! シェイク寿司】

容器の中で醤油と寿司を混合させてから食う
 醤油を容器のフタにどばーっとあけたら、フタを閉じて勢いよくシェイク&シェイク。醤油が寿司とよく混ざり合ったらフタをあけ、即席ちらし寿司として食べよう。いちいち醤油をつけていられない食べ盛りのハングリーボーイには、一気にいけるこの食い方が一番。



50人アンケートの結果。やはりパック寿司では醤油味が重視さるよう。本格的寿司屋では違う結果が出るだろう。なお、「袋ナメ〜」は袋でない醤油容器も含む。「マグロ鳥〜」は「ネタと飯の間に醤油を注入」も含む。


短期間に最も大量に平らげられ、かつラディカルなのは「秒食!〜」だが、「袋ナメ〜」がそれよりもさらに少し右寄りに位置している。2列目からゴールを狙う司令塔の風格だ。

学会主宰より総括
 天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず−−とは福沢諭吉の言だが、人は寿司の上には寿司をつくったわけである。回らない松、竹、梅の寿司の下に回る150円、120円、100円寿司があって、そのまた下にパック寿司……というあたりだろうか。さて、総括である。

 報告1【オンリー・ネタッチShow you!】は通ぶった主張であるらしい。でも通はそもそもパック寿司をよしとはしないと思う。しょうゆうこととちゃう?

 報告2【われら、おシャリな濃厚民族】は、そこまでつけると醤油に浸されたシャリがボロボロと崩壊していく様が目に浮かぶようで痛々しい。

 報告3【ショウコに横づけ】には、横づけと口づけはやはり似て非なるものなのではないかとだけ疑問を呈しておこう。

 報告4【マグロ鳥の餌づけ】は興味深い。何が興味深いかというとマグロは魚なのに鳥と言いきっているあたりがいくぶん。でも、イカ鳥やエビ鳥は無視するのねと拗ねたい気分。

 報告5【さしみいキモチ】は発想がちょっとさみしい。

 報告6【袋ナメってしょっぱいから好き(はぁと)】はそそられる。まず第一に合理的な気がするし、第二に個人的に袋は弱いんだもん。脱パン、もとい脱帽。

 報告7ガリガリ君・醤油味】はちょっとしょうがないなあ。

 報告8【秒食! シェイク寿司】は、にぎり寿司のにぎりとしてのアイデンティティはもはや跡形もなく破壊つくされたとしか言えず。

 というわけで今回の推奨スタイルは、袋の中身をちゅるちゅる吸いつつ寿司をつまむその姿は無重力空間で宇宙食を食す飛行士にも似て、意外と未来的かもねと思えなくもない【袋ナメってしょっぱいから好き(はぁと)】としたい。以上。

絵/龍野宏幸